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Interview
──初のインタビューなので、ボカロPのバルーン、そして須田景凪という人がどういう道筋を辿って今に至ったのかを訊いていければと思います。まず、最初に音楽を作ろうと思ったのはいつ頃のことですか。
須田:ボカロを始めてからはもうすぐ5年ですね。2013年の4月に「造形街」というボカロ曲を初投稿したんですけれど、曲を作り始めたのはその1ヶ月くらい前です。それまで、僕、ずっとドラムをやってたんですよ。
──ドラムはいつくらいに始めたんですか?
須田:中学校1~2年生くらいですね。そこからずっとバンドをやってたんです。音楽を好きになったきっかけはポルノグラフィティだったんですけど、中学から高校時代はTHE YELLOW MONKEYとか東京事変、BLANKEY JET CITYなどそういうロックバンドばかり聴いてコピーしていて。洋楽だとマルーン5やジャミロクワイなども聴いていました。で、漠然とスタジオミュージシャンになりたいと思って音楽系の大学に入ったんです。
──本格的にドラマーとしてやっていこうと思っていた。
須田:そうですね。でも、小さな頃からドラムをやっていたような、天才と呼ばれるくらい上手い人たちが集まってて。自分も少しは上手いと思っていたんですけど、全然違うんです。それで居づらくなったのもあったし、当時組んでいたバンドでもギターボーカルの先輩に曲のアイディアを提案したら拒絶されたのが悔しくて。それだったら自分の作ったもので頑張ってみたいと思って、作曲を始めました。
──ドラマーとしての挫折が最初のきっかけになった。
須田:そうですね。それに、その時は自分で認めたくなかったですけど、今思うと、自分はドラムに向いてなかったなと思います。
──どういうところが?
須田:主に性格ですね(笑)。やっぱりドラマーって、ムードメーカーというか、頼れるお兄さんみたいな人が多いんですよ。でも自分はそういう人間でもないし、そもそも違うなと思って。それで、その時にドラムの機材を全部売って、パソコンとギターを買ったんです。学校もお休みしてDTMを始めて、1ヶ月くらい頑張って曲を作った。それが最初に作った「造形街」という曲なんです。
──なぜボカロを選んだんでしょう?
須田:自分がフロントに立ってバンドをやろうとしても、メンバーもいないしギターも作曲も始めたばっかりだったので。で、ニコニコ動画って、いい意味でチープなもの、拙いものでも投稿できる場所だと思ってたんで、ここでボカロ曲を投稿しようと思いました。でも当時はボカロシーンのことはあんまり知らなかったです。むしろゲーム実況をよく見ていて、どちらかと言うと「歌ってみた」っていう二次創作ばっかり聴いてました。
──「造形街」は初投稿とは思えないほどの完成度ですけれど、どういう風にバルーンとしての作風を作っていった感じですか?
須田:メロディーを作るのも作詞をするのも初めてだし、ギターも弾けなかったので、ドラムだけは凝って頑張って作ったつもりですね。その後もドラムとメロは特に力を入れていますね。
──憧れていた対象とか、目指していた存在はありましたか。
須田:具体的な目標は全然なかったです。最初は仕事をしながら、趣味で作曲していきたいというくらいの感じだったので。
──ボカロ曲を投稿して最初に手応えを得られたのは?
須田:やっぱり、ちらほらいろんな人が歌ってくれるようになった時ですね。作ったからには歌ってもらいたいと思ってたし、自分の曲を歌ってもらえるのが本当に嬉しくて。曲を投稿するたびにそういう人たちが少しずつ増えてきて、やりがいを感じるようになった。そこからのめり込んでいきました。
──ターニングポイントになった曲は?
須田:「アルコーブ」っていう曲ですね。2014年の年末に投稿したんですけど、自分の中で一皮むけたというか、自由に作れたと思って。その後に同人のアルバムを出したら、思ってたより沢山の人に手に取ってもらえた。それもすごい嬉しかったですね。中には手紙をくれた人もいて、そこにもすごく感動しました。聴いてくれる人がこんなにいるんだったら頑張りたいなって。
──歌詞を書くのもバルーンとして曲を作るようになってからですよね。
須田:そうです。
──歌詞の世界観には、どこかしら憂いや痛みを感じさせるようなものがありますよね。そのうえで、リアルな日常と言うよりも別世界の情景を描いているような感じもある。こういう作風はどう培われていったんでしょう。
須田:僕、映画がすごく好きなんですけど、沢山観た中でもいまだに好きなのが『ダンサー・イン・ザ・ダーク』とか『死ぬまでにしたい10のこと』なんです。あと、ちょっと違う系統ですけど『呪怨』も好きで。あの映画の怖いシーン以外の情景描写って、すごくノスタルジックなんですよ。そういう空気感が小さい頃も今もなぜか好きで。そういうのを曲にしたいとずっと思ってやってました。
──そこって、すごく大きなポイントという感じがしますね。なかなか上手く言葉にできない部分だけれども、バルーンの、そして須田景凪さんの曲の切なさみたいなものにつながっている気がします。
須田:『死ぬまでにしたい10のこと』って、主人公が余命宣告をされるんですね。でも主人公は誰にもそのことを言わずに、淡々と普通の顔をして生きていくんです。それって、自分だけ非日常の中にいる不気味さがあるじゃないですか。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』も、ただ残酷なだけじゃなくて、なるべくしてあの結末になってしまう理不尽さがある。そういうのはすごく美しいと思って。そういう感じをどの曲にも詰め込みたいなと思ってます。
──バルーンとして最初のアルバムを出してから、自分の表現はどう変わっていきました?
須田:聴いてくれる人が増えてからは、自分のやりたいことは崩さずに、でももっと聴きやすいものにしたいなと思って作ったのが「トピアリー」ですね。そこからは余計なことをしなくなって、編曲もシンプルになっていって。でも、そういうことを1年くらい続けていたら、100%自分の好きなものを作っているかどうかわからなくなっちゃって。原点回帰じゃないけど、聴きやすいかどうかとか、そういうことを一度忘れて、純粋に自分の好きなものをぶつけてみようと思って作ったのが「シャルル」なんです。
──「シャルル」はバルーンとして一番広く聴かれた曲になりましたよね。その背景にはそういう経緯があった。
須田:そうですね。
──あの曲はラテンのリズムもポイントだと思うんですが、あれは?
須田:ドラマーの頃からラテンのリズムが好きだったんです。ジャズとかボサノヴァとか、そういう系統ではなくて、J-POPに混じっているラテンのリズムが好きなんですよね。ラテンのリズムはどこかしらに入れたいとはいつも思ってます。
──「シャルル」という曲は、それまで発表していた曲をさらに上回る反響がありましたよね。これはどう受け止めましたか?
須田:嬉しい反面、ちょっと怖かったです。でも、自分の一番好きなものでそうなったのはよかったなと思います。
──JOYSOUNDが発表した2017年の年間カラオケランキングでもこの曲が10代の1位になっていましたね。(※2017年発売曲 カラオケ総合ランキングでも1位)2位が星野源さんの「恋」で、3位がUNISON SQUARE GARDENの「シュガーソングとビターステップ」。当事者としてはどうですか?
須田:すごく嬉しいですけど、正直、あまり実感はないです(笑)。本当にずっと家で音楽を作ってる生活ばかりしてたので、1位っていうニュースを見て「あり得ないでしょ」って。他人事な感じでしたね。ただ、「シャルル」の次に「メーベル」っていう曲を出したんですけど、それも自分の本当に好きなもの出そうと思って作ったんです。うるさくて盛り上がる曲じゃないけれど、それも思ったより聴いてもらえて。そのあたりから「好きなことをやっていいんだな」と思えた感じです。
──今回のアルバムはボカロPのバルーンとしてではなく、須田景凪という名義で自分の声で歌っているわけですが、歌い始めたのはどういうきっかけだったんでしょうか?
須田:前から歌うのは好きだったんですけど、「シャルル」のセルフカバーを投稿したときに想像以上に沢山の人に聴いてもらえて。その時期から自分の言葉で伝える曲を書きたいなあと思う様になりました。
──昨年にバルーンとしてリリースしたアルバム『Corridor』では、ボーナストラックとして「シャルル」や「メーベル」を自ら歌ったセルフカバーを収録していましたね。ボカロPとしての活動とシンガーソングライターとしての活動を並行してやっていこうという意識はそのあたりから生まれていったんでしょうか。
須田:そうですね。でも、ボカロも歌も両方大好きだし、それぞれの良さをごっちゃにもしたくないので。ちゃんと差別化して、お互いの良さを出して、作り分けていきたいなと思ってます。「これは人間が歌うと良いメロディー、これはボカロだったら良いメロディー」というのをわけていきたいという。
──自分が歌うことを念頭に置いて書くメロディーと、ボカロに歌ってもらうことを念頭に置いて書くメロディーとは違いがある、と。
須田:全然違いますね。しかも、ボカロは「歌ってみた」などの二次創作の盛り上がりも含めた上での文化なので、聴きやすくて、歌いやすいメロディーを意識して書いていることが多かった。でも、「シャルル」はただ自分が歌いたいメロディーを書いたんですね。
──ちなみに、バルーンっていう名前、須田景凪っていう名前って、それぞれどんな由来で?
須田:バルーンっていうのは、本当に何も考えずに語感が気に入って付けましたが、須田景凪は自分自身が歌う時に、より自分に近しい名前で活動したいという想いで須田景凪にしました。
──アルバム『Quote』は須田景凪としての最初の作品になります。どんなテーマ、どんなイメージから作っていったんでしょうか?
須田:ボカロPとして作っているときは、言いたいことが難しいことだったとしても、簡単な言葉で伝えたいなと思っていて。須田景凪として自分で歌うときは、ちょっと難しいことでも、あんまりろ過せず出したいなって思っていて。ちゃんとありのまま伝えたいというのが大きいです。言葉にするのは難しいんですけど。
──難しいこと、というと?
須田:単純に言葉遣いもそうなんですけど、ボカロの曲っていろんな感情とかストーリーを全部ろ過して、1行に簡単にまとめたようなものをあえて使うことが多いんです。須田景凪としてはそれをろ過する前の段階で曲に出したい。そういう感じです。
──須田景凪名義で最初に作った曲は?
須田:世に出たのは「アマドール」なんですけど、作ったもので言うと「Cambell」です。これはさっき映画の話をした時に言った、普通の日常のなかの不気味さを書きたいなと思って書いた曲で。何をやっても心理的にあんまり埋まらないところを曲にしたいなと思って書いた曲です。
──この曲は整理がついてない感情がそのまま曲になっているような生々しさがある感じがします。だからこそ、そういう意味では、自分の声で歌う必然性があると。
須田:そうかもしれないです。
──「アマドール」はどういうテーマから作っていったんでしょうか。
須田:僕はそれまで男の人と女の人の間の愛ばかり書いてたんですけど、「アマドール」は友達のなかの愛だったり、家族のなかの愛だったり、恋人間の愛だったり、全部に当てはまる曲を作りたいと思って。それを意識して歌詞を書きましたね。でもそれも「Cambell」と同じなんですけど、整理されてない部分を歌詞にしたいなと思って書きました。
──「レド」はどうですか?
須田:あの曲は自分のことを書いた曲ですね。引きこもって曲を書いてる毎日が多いですけど、そうすると悩んで1日が終わる日とかも全然ある。たまに2~3週間ずっと同じことで悩み続けるようなときもあって。それは何かを作っている人にはつきもののことだと思うんですけど。でも、たとえば日常で買い物に行ったりすると、周りの人達は僕が悩んでることは誰も知らないじゃないですか。もちろんそういう人たちもそれぞれ悩んでるんだと思うんですけど。そういうところで渦巻くものがあって、それを歌詞にしたいなと思いました。
──やっぱり自分と世界のズレみたいなものが繰り返しテーマになるんですね。
須田:それが最近は多いですね。特にこのアルバムはそういうテーマのものが多いかもしれないです。
──「レド」はテンポも速いし、ドラムの印象的な曲でもあります。これはアルバムのリード曲になりましたけど、自分の一つの名刺のような感じはありますか?
須田:そうですね。でも、自分の中では2~3枚ある名刺のなかのひとつっていう認識です。アッパーなものはこれで、バラードは「アマドール」。でもこの2曲だけだと、バルーンが残ってる感じが僕のなかではあって。その意味で「Cambell」みたいな曲はバルーン名義だったら書けない曲だと思うので、あれもたぶん名刺の1枚だと思います。
──アルバムのタイトルの『Quote』はどういうところから付けたんですか?
須田:引用っていう意味なんですけど、僕は4年前から曲を作ってきて。いまだに作曲の理論的には全然わかってないことも多いんですけど、今までの自分から全部をいろいろ引用していきたいなと思って付けたタイトルです。自分の音楽人生だけじゃなく、普通に今まであった良いこと悪いこと、全部から引っ張っていきたい、と。
──こうして須田景凪としてのアルバムを作ったことで、「バルーンとしてはこんなことができる」という可能性みたいなものも広がったと思うんです。そのあたりはどうでしょう?
須田:分けたことによってメリハリがついたと思いますね。須田景凪のときは人間だからこそのメロディーと世界観、バルーンでやるときはいかにボカロで映えるか、誰が歌ったとしてもいい曲になるかっていうのをテーマに書いていきたい。そういうことが自分のなかでキッパリ分かれたという感じです。
──3月16日に須田景凪としての初ライブを開催することも決まりましたが、どういう意気込みを持っていますか。
須田:これまでバルーンとしてメンバーに友達を呼んで何回か小さな会場でライブをやったこともあったんですけど、須田景凪って名義で初めてやるライブは、自分自身が歌う楽曲を中心とした明らかに今までとは違う意識でのライブになるとは思います。
──バンドスタイルで、自分がセンターに立って、ギターボーカルで歌うようなステージになるわけですね。
須田:そうです。あまりライブには慣れていないし、いろんな意味で気が抜けないというか。今から凄く緊張していますが、お客さんが「来て良かった!」と思ってもらえるようないいライブにします。
(取材・文 / 柴 那典)
Live
2018.03.16(金)at 渋谷WWW
OPEN 18:30 / START 19:00
料金:3,500円 (税込 / オールスタンディング / ドリンク代別)
一般発売日:2018年2月24日(土)
チケットぴあ:https://t.pia.jp
※「Quote」封入チケット最速先行受付期間:1/30(火)〜 2/12(月・祝)
お問合わせ:渋谷WWW 03-5458-7685 / URL:http://www-shibuya.jp